モノログ

窓から、KOMATSU と書いてある白いトラクターが、大きなジェット機を引っぱっているのが見える。ANA だから、あれは違うなと思う。11時に成田を出て、角煮とホットドッグを食べ、16時にロンドンのヒースロー空港に着いた。うす曇りで、ところどころに青空がのぞいている。急行でパディントンへ行き、タクシーでしーちゃんの家へ。タクシーはゆったりしていて、眺めている窓の外は新緑だ。ほどなく、張り出した窓が整然と並ぶレンガ壁のコートハウスに着く。上にはレンガづくりの煙突がある。前の道路には、車が縦列駐車している。オペル、プジョー、アウディにまじってレクサスがある。アウディは 2 シーターだ。車からおりてコートハウスを見上げると、上下昇降式に開く窓には白いレースのカーテンがかかり、2、3 階の開いた窓ではそれが風にゆれている。

時差ボケの解消をかねて、ハムステッドヒースへ散歩に行く。途中、あちこちの庭先にライラックが咲いていて、いい香りがする。リハウス中の一軒の庭をショートカットする。乱雑に散らばるレンガをよけながら、ピョンピョンと歩いていくと、節くれだったトネリコの樹々の緑陰の向こうに、小さな池が見えてきた。「この辺かな」と言いながら、林道を入る。通路標識がないのもおもしろい。林の中の小道に、風雨にさらされて、すっかりカシュー塗装のはげた木のベンチがある。背板に「・・・ DAVID 1923 - 2002」 と彫ってある。しばらく行くと林がきれて、空の高い丘と、その上に立つ1本の樹と、そこに続くまっすぐでちょっとうねった道に出た。こういう樹を見ると、いつも思い出す歌がある。野の中に姿ゆたけき一樹あり、風も月日も枝に抱きて （斎藤 史）というものだ。感傷にひたっていると、「あの向こうがケンジントンハウスだ」と、しーちゃんのパートナーが言った。丘をこえると、ケンジントンハウスの白い姿が見えた。ひと汗かき、お腹がすいてきたので、ウィンナー2本とポテトフライ、カリフラワーのランチをとる。前庭の芝生に寝ころんだら、時差の疲れが出たのか、すっかり寝入ってしまった。おかげですっきりした。カモたちが泳ぐ池を通り、ハムステッドの地下鉄駅前のパン屋まで来ると、パンの焼けるいい匂いがした。あしたの朝のクルミパンを買ってから本屋に入り、ハムステッドヒースの細かい地図がないか聞いてみた。売り切れで、来週入るという。「ないほうがたのしいよ」と言う声がした。

きょうは船でフランスへ渡る日だ。ジュース、クルミパンとハムサラダ、コーヒーのブランチを取ったあと、荷物をまとめ、地下鉄でウォータールーへ。そこで乗りかえて、ポーツマスへ行く。港までタクシーで5分。ハーバーロビーで乗船の手続きを終えて、船待ちし、入船してきたフェリーに乗る。ちゃんとしたランチを食べていなかったのでお腹がペコペコだ。レストランに入ると、ビュッフェに前菜と菓子や果物がある。ちょっと取りすぎたかなと思ったがおいしくいただく。メインの肉料理はピッグとビーフとヒラメの選択だった。

船内放送で起きた。よく寝た。腕時計をフランス時間の7時になおす。シャワーコックをひねったら水だった。おかげで目がさめる。デッキに出ると、サンマロの城壁が連なる岸壁が目の前に見える。イギリスとフランスが何度も戦ってきた歴史があることを思い出す。下船して、予約しておいたルノーをレンタルする。ロンドンでも右ハンドルだったので、左ハンドルになれるまではしばらく安全運転だ。ドライビングがてら、モンサンミッシェルの近くまで行ってみた。道路わきの海岸線をこちらの方に歩いてくる人たちがいる。そうか土曜日だったなと思う。外観だけ眺め、目的地のカンカルへ。生ガキがおいしいらしい。途中の町の鐘の下がった時計塔が10時半をさしている。そばにパティスリーがある。お茶の時間だ。夫婦ふたりでやっている瀟洒なお店に入る。めいめいが、クロワッサン、クイニーアマン、アップルパイ、数種類のデニッシュブレッドをとり、ワイワイ言いながらコーヒーする。一息ついて、またカンカルまで、海岸線を走る。日本では生ガキは冬のものだが、ここではまだおいしく食べられるという。街中にクルマをとめて、あたりを物色しながら散策する。石づくりの街並みに強い陽ざしがあふれているかと思うと、中庭に通じる狭い通路には濃い影がただよっている。影の先の明るみには、壁にかけた鉢植えの草花や、無造作に置いた木々の緑が見える。
海岸に近づくと、露店がたくさん並んでいた。カキを売る店だ！カキはクラス分けされているようだ。4.4 ～ 5.5 ユーロ La dz とある。ここで食べると言うと、「SUISS FOOTBALL 」 と書いた赤いTシャツを着たハーフパンツのおにいさんがナイフですばやく殻と身を切りはなし、1ダースほどを紙皿に円心状に並べ、まん中に2つに切ったレモンを置いた。護岸に腰かけて、左手のカキに右手でレモンを絞りかけ、食べる。ツルンとうまい。海を眺めながら、あっという間に 6コ食べてしまう。足元はみんなが投げたカキの殻で砂地が見えない。ターコイズブルーの海に、白いブイやくいや、その周りに作業船らしきボートが浮かんでいる。ウミネコが鳴いている。
サンマロに戻り、旧市街地の外の駐車場に停める。ホテルにチェックインし、旧市街地と城壁を散策する。城壁の上をめぐる回遊路は2、3メートル巾でうねうねと続いている。市街の家の3階の窓と同じ高さだ。城壁から見る旧市街地の道は地面に掘られた溝のように見える。城壁回廊からおりて、旧市街をウィンドウショッピングしながら散策する。いったんホテルに帰り、荷物をといてから、散策のときに目ぼしをつけた、「えら」という名前のレストランへと向かう。カンカル湾産カキ6個が入っているセットメニューははずし、市場仕入れの魚のシチューと豚ヒレ肉のリゾットに白ワインをそえた。壁一面の大きな窓を通して、ウィンドウショッピングしながら通りを歩く人と目が合う。

きもちのいい朝だ。外のベランダに並べた籐イスに腰かけて、テーブルに置いたトレイの上のクロワッサン、小ぶりなクルミパン、パックのジャム、チーズ、オレンジジュース、コーヒーの定番の朝食をとる。卵をとりわすれたらしい。さて、中世の面影が残る街・ディナンに向けて出発だ。ディナンへ向けたロータリー5差路のわきに、オブジェのような高圧電線の鉄塔が立っていた。1時間ほどで着き、木組みと土壁・しっくいの外壁の建物があちらこちらに残る街すじを散策する。土壁は白かったり、黄色っぽかったり、茶色だったりする。華やかな感じだ。レンガや石作りの建物も多い。こちらの方は覚めた雰囲気で、街並みになにか落ち着きが感じられる。お昼にはクレープ屋さんでトマト、ハム、卵を四隅を折って包み込み、上にも半割のミニトマトと目玉焼きをのせたクレープ・コンプレというガレットを焼いてもらった。飲みものはシードル（りんご酒）で口あたりがいい。午後はレンヌへ大聖堂を見に行く。 予定していた高速の出口がしまっていたのでやりすごし、少し遠回りになり、着くのが遅れた。レンヌはブルターニュ地方の中心都市で、大きい街だ。大聖堂も大きくて圧倒される。見上げる首が痛い。彩色された木組みと土壁・しっくいの外壁の建物群も数多くあり、目移りしてしまう。結局、大きすぎる街は大きかったという記憶のみが強く残った。サンマロに夜半に帰着し、あいているレストランを探して入った。ジャンボンなんとかというハム料理はワインと相性よくボリューム満点だった。

今日は旅のメインのシードル街道へ行く。シードル街道の季節の自然と、人と街並みとを存分にたのしみたい。街道すじの気にいった醸造所でシードルを箱買いするのも目的のひとつだ。朝早く出て、前のパン屋さんでパンを買い、車内で分けて食べる。シードル街道に入る前に、大きなカルフールがあった。店の入り口わきには日本では見たことがない、新鮮な牛乳の自販機小屋があった。白地に黒い斑点の大きな乳房のホルスタイン1頭が畳1枚ほどの大きさのパネルになっていて、遠目にでもすぐにわかる。小屋の左側は2リットルの空のペットボトル0.2ユーロの自販機で、右側が牛乳の自販機になっている。ペットボトルをここにこう入れなさいという写真つきだ。1/4リットルきざみで買える。1リットル1ユーロ。それなりの物価だ。カルフールで水とりんごを調達し、シードル街道に入る。童話の国に入る子どものきもちだ。インフォメーションロゴのついた掲示板に畳半分ほどの大きさの「シードル街道」と書かれたマップがあった。旅程は同伴者におまかせの私はここで初めてシードル街道がはじめとおわりのないループであることを知る。これは便利だ、どこから入って、どこからでも出れる。行程の全部を満喫もできるし、すこしだけつまみ食いしてもいい。マップの中の四国のような青いループが輝いて見えた。
街道のあちこちにあるりんごの木には10円玉ほどの大きさの実がたくさんついている。陽の当たる部分はやわらかい桃色で、はやく摘果しなくちゃぁという風情だ。ツーリストオフィス掲示板のある町に来たので寄ってみる。町の全体に木組みと土壁・しっくいの外壁の建物がほどよい間隔で並んでいる。ほとんどが屋根裏部屋のある2階建てにそろっていて、木組みと土壁の構成や色合いがバライエティに富んでおり見ていて飽きない。1軒の家のウィンドウにミニチュアの木組みの家が十数軒並んでいた。紺のルノーより赤いプジョーが似あう町だ。陽ざしの強い初夏のような風景をながめながら、窓からはいる薫風をあびて走る。どこの家の庭にも赤やピンクのバラの花が咲いている。しばらく行くと、お目当ての醸造所のある農園の門に着いた。風雪を感じさせる古レンガの門柱には似あわない純白のペンキで塗られた門扉があいていて、中にローズピンクが見える。正面の平屋の屋根に風見鶏。となりは土蔵らしい。平屋と土蔵のあいだの道を抜けると、長いまっすぐな並木道がつづいている。手前にある一抱えほどある樹の幹に、赤い矢印の下に、「入場無料　ワークショップブティック」と書いてある掲示板がくくり付けてある。並木道にたたずむと、陽ざしがさえぎられ、涼しい。スプリングコートを着ていてちょうどいいくらいだ。並木道の向こうにフランス庭園のようにきれいに刈り込んだ木と整然とした庭にかこまれた建物があらわれた。中に入る。たくさんのシードルの瓶とコンフィテュールが並んでいるテーブルや棚が目に入る。若者が出迎えてくれた。御曹司かもしれない。試飲できるということだが、この先のドライブを考えて、がまんする。しーちゃんたちはシードルよりもコンフィテュールを品定めするのに時間をついやしている。わたしたちはシードルを何箱かルノーのトランクに運んだ。ここから郵送もできそうだったが、イギリスの郵送事情を考えると、持参した方が無難だ。手元にも置いておきたかった。りんごの木がどこまでも並ぶ農園に入り、まだ青いりんごの実を見たり、農園の周りの林の木かげでしばしゆっくりとした。
ワイナリーを出て、海辺の街、ドーヴィルへ向かう。しばらくは田園風景と見なれた町すじがつづく。　・・・　と、「マルシェ（市場）」の表示がある町につき、「ルイ・ヴィトン」と書かれた表示がある木組みと土壁・しっくいの外壁の建物が出てきた。その先は噴水の出ている公園広場だ。「カジノ」と書かれた表示がある白亜の建物が見える。ドーヴィルについた。きょうの宿の郊外のオーベルジュ（レストラン イン）に入る前に、海岸プロムナードを散策する。広い砂浜にはどこまでも色とりどりのパラソルが立てられている。パラソルはすぼめられたままで、あたりにはいくつかのテントハウスや積みあげられた白いプラスティックのデッキチェアがあり、青赤ツートンカラーのテントハウスの前にはデッキチェアに寝そべるおじいさんとおばあさんたちがいる。どういうわけか浜辺を騎馬警官が巡回している。？と思ったが、プロムナードにはアイスクリームを両手に持って、なめながら歩く、海水パンツのおじさんもいる。わたしたちもさっそくそれに仲間入りした。
海岸から30分ほど走り、オーベルジュに着いた。中庭をレストランのあるレンガづくりの建物と木組みの建物とが囲んでいる。そこここに赤、白、ローズピンクのバラが咲いている。庭先を通ると池のほとりの木製のデッキチェアに浅く腰かけて、頬杖をついて本を読んでいるご婦人がいた。サイドテーブルにはいくつかの本とメガネケース、脱いだ上着。そっとそのわきの道を通る。レストランがのぞける窓ガラスに向かいの樹の緑が映り、ぴんと張ったテーブルクロスとセッティングされたカテラリィがみどり色の反射を受けている。一輪挿しのガラスボトルに、縁と頂だけローズピンクの白い八重のバラの花がさしてあった。

朝はゆっくりと朝食をとって、セーヌ河の河口の港町オン・フールへ。例によって街を散策すると、丘の上に露座のカリヨンの鐘があり、港町の全貌も見られるというので、えっちらおっちら15分ほど山坂道をのぼり行ってみる。三段の木組みに吊るされたカリヨンがあった。残念ながら回りが鉄条網で囲まれており、鐘は鳴らせない。その傍らには、人の高さほどの分厚い石版が立っていて、赤子を抱く修道女が彫られていた。「恵みの聖母　1944」とあったから、そう古いものではないらしい。丘からはオン・フールが見わたせた。そこには同じ場所から撮った1930年のオン・フールの写真があり、建物のかたちはあまり変わらないが、河口に向かって街が大きくなっていったことがわかる。セーヌ河の河口を渡る長大な橋（レインボーブリッジのよう）が印象的だ。記念に橋を背景に写真を撮り、ワイワイ言いながらまた坂をくだり、ハーバーのヨットが停泊している街並みを歩きながら、あちこちに寄り道して焼き菓子のガレット・ブルトンヌをお土産に買った。
ルノーにのり、30分ほど走って、ポン・オードマーに来た。ノルマンディーのヴェネツィアと呼ばれる運河の街並みを散策。運河の水は澄んでいて、長い藻がゆらゆらと揺らめいていた。歩き疲れたのでインフォメーションオフィスでしばし休息し、大聖堂とジャンヌ・ダルク教会を見にルーアンへ。1時間後に到着。大聖堂も教会もそれなりの迫力と美しさがあった。教会のステンドグラスも見事だった。　・・・　が、観光地の観光名所という感じだった。大聖堂のまえのマックでコーヒーを買い、広場の石のベンチにすわってパンをかじっていると、斜め向かいのベンチにまずしい身なりのおじさんがボーっと座っていた。おじさんから見たら、わたしたちはどんな風に見えるんだろうか。 オン・フールの方向へ少し戻り、セーヌ川が湾曲しているほとりの村のBandBに夕方到着。きょうはけっこう強行だった。18世紀の茅葺き屋根コテージが点在する小さな村だ。4カ国語を話すご主人と少し話をする。ご主人が半分趣味的にこのBandBを開き、奥さんはパリに住んで別の仕事をしていて、週末にここへ来るとのこと。今夜泊まる部屋にルイ王朝時代のデザインの椅子が一脚おいてある。なにか食べる所はないかと聞くと、クレープ屋があるというので行ってみる。普通の家の一角にあった店に入ると、おかあさんと小さな女の子が出迎えてくれた。メイン料理に食事ガレットを、デザートにコンフィテュールを包んだクレープを所望する。女の子が配膳担当らしい。そのけなげな様子に感動して、こんなときのために持っていた、かわいいおひなさまのイラスト切手シートをあげた。 ちょっとほっこりしたきもちで宿に帰ると、ご主人が、「夕焼けを見ないか？セーヌに沈む夕焼けはいいよ」と言う。宿の庭のセーヌ河畔の大きな樹の下に、木の椅子とベンチ、テーブルの上にシードルのボトルが置いてあった。樹の幹には脚立が立てかけてある。樹には小さな実のようなものがたくさんついているが、高くて何かよくわからない。せっかくなので用意してくれたシードルをちょびちょびとすすりながら、セーヌの下流の流れを前に、自然の風景と風を感じながら談笑する。樹と脚立の影が長くのびていく。陽が落ちてくる。ご主人が「これ、使って、寒くなるから」と毛布をもってきてくれた。夕日が山際に触れ、空の絹雲と飛行機雲を白く、川面に一すじの金色の光跡をつくる。雲がだんだんオレンジに変わるとともに陽が没し、川面が暗くなる。陽が沈んだのは10時だった。毛布があって良かった。

きょうはかなり走ってジヴェルニーのモネ記念館へ行った。空いている駐車場をさがし、人込みに並んで記念館に入り、「水連の絵と同じだね」と満足してモネの庭を歩いていたら、許可された歩道をほんの少し踏み出したらしく、監視人にきびしく注意された。
またこのBandBへ帰ってくる予定だ。セーヌ川につかず離れずして戻る道で、ロールに巻いた干し草を積んだ貨車をひくトラクターのあとについてのんびりと走る。麦畑の麦の穂が出ている。フランスは豊穣だ。村のパン屋でバゲットサンドを調達し、レザンドリーで廃城を見たあと、リヨンの美しい村をまわり、再度レザンドリーに戻り、街のレストランでプロバンス料理をいただいた。

階下にベルギー人のご夫婦が泊ったので、朝食後、ふたことみこと話す。三度目のリピーターとのことだった。きょうの目的地カーンへ行く道すがら、開いているお城をさがして見学するつもりだ。途中のまちの市場でリンゴを買う。リジウーという街にこぢんまりとしたお城があった。掲示板に書かれたコンタクト先に電話し、しばらくするとトラクターに乗ったおじさんが来て、閉まっている門扉をあけてくれた。お城の中ではキジやクジャクが何羽も遊んでいる。白、茶、極彩色と色々だ。池には白鳥が泳ぎ、ふわふわの毛をした白鳥の子どもが4,5羽かたまっていた。城は16世紀の末につくられたということで、経てきた歴史や時間に応じて改築されたあとが見られ、調度品や発掘記事などもあった。ひとの住んでいない建物はどこも冷え冷えとしていて、わたしはお城の石段で足を滑らせておしりを打ってしまった。何かが足をすくませたのかもしれない。お城を出て、まえに通ったシードル街道の町で休憩し、フレンチの料理自慢のカーンのホテルに入った。あすは高速フェリーでポーツマスへ戻る。夕方にはロンドンへ着くだろう。

ホテルで朝食をとったあと、カーンの街の市場をすこし見て回った。市場はしばし旅行者から生活者へとわたしを変えてくれるので好きだ。根無し草が落ち着ける気がする。ルノーをレンタカー会社に返し、タクシーでフェリー場へ。フランスへ来たときは一晩かけてのんびりだったが、高速フェリーは3時間と速い。航路の違いもある。速い代償に船が揺れる。船酔いだ。ポーツマスには夕方着き、少し休んで気分を直してからウォータールー駅経由でベイカーストリートまで行き、ロンドンタクシーで帰宅した。夕飯はゴハンとミソ汁、梅干し、味付け海苔。おいしかった！

あとがき

武田百合子著 「犬が星みた ロシア紀行」 （中公文庫）を読んだら、目次も章もない。簡単な地図が一枚。これを見ながら旅の日常を描いた文章を読んでいくと、目次も章もなにもないことが返って、リアルなイメージをもってせまってきた。p305「旅行者って、すぐわかるね。さびしそうに見えるね」 「当り前さ。生活がないんだから」 p306「犯罪に時効ってあるじゃない。十年目とか十五年目とか。でも外国へ行っていた間の年月や時間は勘定に入れてくれないんだってね・・・・・・なるほどと思うなあ」 読み終わって、わたしも「フランス紀行」を書きたくなった。記憶とメモや写真をもとに、書くことで再び旅行してみたいと思った。